as red flag - reviews about game

under chequered flag

23.JUL.2007

ATBがもたらしたもの


 もしRPGが好きな人のあいだで『ファイナルファンタジー』(以下『FF』)シリーズについてのイメージを聞いて回ったら、どんな答えが返ってくるだろうか。「映画のような映像と音楽」「映画のような(笑)映像と音楽」(*1)「生と死を強く意識させる壮大な物語」「個性溢れるキャラクター」「みょうに抽象的なラスボス」「無印→ラ→ガ」「ジョブ&アビリティ」「セフィ×クラ」(マテコラ)などなどいろいろ思い浮かぶなかで、それでも「アクティブタイムバトル」(以下ATB)がかなり上位に食いこむのはまちがいないと思われる。『FF4』でこのシステムが登場したときの衝撃はきわめて大きく、当時10歳になろうかというわたしはそれまでのRPGとのちがいにうまくなじめず初見では挫折している。子供時分からボンクラヘタレゲーマーであったことがここでも実証されているわけだがしかしそれほどに革新的であったということだ。『ドラゴンクエスト』(以下『DQ』)のような牧歌的に攻守を交代するターンバトルに慣れた身にとって、ATBの緊張感は明らかに異質だった。
 このATBと密接にかかわっている要素として、たとえばここで、対象のATBゲージが溜まるまでの時間を短くする(≒スピードを上昇させる)「ヘイスト」を思い出してみることにする。『DQ』シリーズにおいておなじように「すばやさ」を上昇させる効果を持つ「ピオリム」が「ザメハ」や「メダパニ」並みに無用の長物と化している(いやまあ、使うひともいるんでしょうが)のとは対照的に、この魔法の使い勝手はかなりよい。両シリーズを長くプレイしているひとは、ピオリムとヘイストの使用頻度を思いくらべてみてはどうだろうか。前者がメタルスライム系と遭遇したときくらいしか使わない(それとて2ターン目で先手をとるためで、すぐさま逃げられたら無意味になる)のに対し、後者は長引きそうな戦闘におけるファーストアクションの選択肢に組みこまれているはずである。もっといえば「ほしふるうでわ」はわりとどうでもいいが「エルメスのくつ」はぜひ装備しておきたいアクセサリーだ(*2)――うまくすれば敵が2回動くあいだに自分は3回のアクションを起こせるのだから。これはいかにもATBシステムのなかで有効になる考え方だ。どれだけ「すばや」くなったところで律儀に1ターン1回ずつ攻撃する/されざるをえない『DQ』とはスピードを上げることの重要性が決定的にちがう。
 かくして両ゲームで採るべき戦術にもちがいが生じてくる。ATBシステムの『FF』においてはなるべく多くの回数行動することによってアクションの選択肢を増やすほうが有利だが、『DQ』ではターンごとに行動が断絶するから、ポイントでの能力を最大限に高めることのほうが価値が高いことになるだろう(*3)。戦闘開始から終了までのプレイヤーの動きを俯瞰すれば、ある時点でメンバーがどう振る舞うかを共時的に決定するのが『DQ』で、あるメンバーが通時的にどう振る舞っていくかを描くのが『FF』ということができる。ピオリムが明確に「対象のすばやさを上げる」呪文なのに対して、ヘイストが時空魔法であり、「対象の時間経過を早める」ニュアンスの強い魔法であることも、このような解釈を後押しする。
 ここに時間的感覚の有無が深く関わっていることはいうまでもないだろう。そもそも「時空魔法」が時空をコントロールするには、時空がそこに存在しなければならない。時空魔法という発想は、ATBゲージの導入と軌を一にして『FF5』で生まれたことからもわかるように、あきらかにATBに付随している。これ以外にもATBから派生した要素は数々あるが、その多くが時間にかかわるものであることは見逃せない。戦闘をおもしろくする工夫として生まれたATBは、しかしシステムを超えて連続的な時間の概念をも創出してしまったわけである。
 その概念はそうとうに強力なもので、あっという間にATBはシリーズの中核を担うようになっていった。当時のスクウェアが特許を取得したことからもその重要性は知ることができるし、その後も時間こそが中心に置かれるべきという考え方は守られつづけた――一方で美麗なムービーなどの演出に(過剰なほど)力を注ぎつつもシステム面でつねに野心的な試みに取り組んできたと評される『FF』シリーズだが、しかしそうでありながら『12』で採用されたアクティブディメンションバトルに至るまでATB的発想は受け継がれている。『FF』の進化は保守と革新の狭間から生まれてきた(ゆえに王道たりうる)というべきで、その野心はつねに時間の連続性という基盤に拠っていた。
 振り返ってみれば『FF』のパラダイムが真に決定されたのは、ATBが誕生した瞬間だったのだ。

(*1)まあ評価はさまざまということで。わたしは後者で答えたいタイプだ。 (*2)たしか『DQ3』『DQ4』あたりはすばやさが防御力と関連していたはずで、だとすると話が複雑になるけれども、とりあえずそれは措く。 (*3)攻撃力を2倍にする「バイキルト」がまさにそのための呪文であり、『FF』でそれに類する魔法が(『4』以降で基本的に)少ないのはそういう方向性の象徴といえる。


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