NOV.11.2007
ギャルゲーの憂鬱
家から近いこともあって会社帰りにヨドバシカメラ吉祥寺店の5Fによく寄るのだが、すでに旧世代ハードとなってしまったPS2のソフトがいまだ勢力を保っているなかで、ひとつおもしろい棚を見ることができる。ゲーム雑誌がむちゃくちゃに並べられているのも書店との歴然たる差を見て取れて興味深い(書店以外で雑誌を扱うとどうしてああも棚が乱雑になるのか)のだが、きょうの本題はその向かいの棚だ。
その棚の何が特徴的かといって、他のPS2ソフトのコーナーでは当たり前に掲げられている「RPG」「シミュレーション」「アクション」「レース」だのと言ったジャンルを示す仕切りがなく、なんの説明もなくずらずらと「ギャルゲー」(*1)が並べられていることだ。
ほかの店について調査したわけではないのであくまでヨドバシ吉祥寺に限っての話をすると、この棚から聞こえてくるのは店側の「どう分類したものかわからない」という声である。もちろん「ギャルゲー」という言葉はあるわけだが、それはどちらかといえばゲーマー同士で通用する単語であって、いちおうそうでない人もたくさん訪れる売り場で堂々と掲げるわけにもいかないだろう(ここはゲーム専門店ではないのだ)。ゲーマーでなくても、「RPG」「シミュレーション」「アクション」「スポーツ」「レース」なら「どのようなゲーム」かそれなりにわかる。それはもともとゲームと無関係に使われる名詞だったり、そうでなくても表のゲームジャンルとしてすでに長い歴史を積み重ねてきているからだ。「RPG」と言ったら冒険して敵を倒す、とその程度の認識であっても、そこでなされる共通了解というものは存在する。「ギャルゲー」にはその素地が(ゲームをやる人の間にしか)ない(*2)。そもそも「ギャル」(「美少女」でもよい)は動詞ではないのだから、「するべきこと」がわからなくて当然だ。
(それに「○○ゲー」という呼び名は「クソゲー」「バカゲー」といった具合に、いかにもスラングという印象がつきまとう。「きちんと整理しています」という雰囲気の売り場には似つかわしくない。「格ゲー」だってそこでは「対戦格闘ゲーム」として落ち着いた名前を与えられているのである。「RPG」「スポーツ」「ギャルゲー」「アクション」「シミュレーション」……並べるとやはり異質だ。かといって「ギャル」ではそれこそ意味がわからないし、余計に浮く)
「ギャルゲー棚」に並んでいるパッケージには戦略シミュレーションかRPGっぽいゲームも散見されたが、それは多くの恋愛アドベンチャーのなかに埋没している。それらが「シミュレーション」「RPG」のコーナーに辿りつく気配は、いまのところない。もちろん需要の関連性を考えれば「そこ」におくのは正しい戦術だとは思うが、その結果として棚がカオスになっているのも事実である。
さて、上でちょっと挙げた『うたわれるもの』がそうであるように、その棚に並べられている「ギャルゲー」のうち、少なくない数が「元エロゲー」だったりする。もちろん最初からコンシューマー向けに作られたものもあるが、しかしそもそも恋愛とセックスが不可分である以上、そういうゲームでセックスシーンは「描かれていない」だけに過ぎないから、根元的なところではエロゲー(の一部)と相違ない。つまりエロゲーのとき「18歳未満の入場おことわり」のコーナーに置かれていた多数のゲームは、一般化されたときに行き場を失って、ジャンルも何もなくただひとかたまりに置かれた、ということになる。
このようにエロゲーからエロを取り払ったゲームが分類不能に陥るのは、逆に言えば「エロ」がひとつの分類になっているということだ(「恋愛ゲーム」という分類もあろうが、それは「エロ」の一部を言い換えただけである(*3))。戦略シミュレーションだろうとRPGだろうとサウンドノベルだろうとシューティングだろうと(いやしかしシューティングのエロゲーというのはちょっとメタフォリカルに過ぎる)、セックスシーンを導入すればすべてエロゲー。これはちょっとすごいことだ。エロゲーの枠のなかでの「ジャンル」にはもはや意味不明なものを見かけるが、これも最終的にエロで括ってしまえることに対する安心感があるからできるのである。エロはさまざまな困難を越えるのだ。
だからもちろん、あらゆるものを包括するエロがなくなれば困難は顕在化する。ヨドバシ吉祥寺で「元エロゲー」がなんとはなしに固まっているのはそのわかりやすい見え方だ。だが、分類不能なまま棚にひとかたまりにしておくのは、18禁コーナーをそのまま一般に移設しただけであって、なんの工夫もない行為である。いまはまだこれで収まりうるが、おそらくPCからコンシューマーに移植するエロゲーは今後も増え続けるだろう。すでに片面3つをしめている棚の面積(*4)がさらに拡大していき、「その他」扱いに耐えきれなくなったとき、なにか変動は起こるだろうか。すこし楽しみである。
(*1)『金色のコルダ』『遙かなる時空の中で』など女性向けゲームも多くおいてあるが、それは基本的に男女を裏返しただけだから、ギャルゲーとしての素質は十分だ。
(*2)「ギャルゲー」の歴史も長かろうが、どちらかと言えば傍流としての歴史だよね……やっぱり。
(*3)実際、「恋愛アドベンチャー」と「恋愛シミュレーション」は売り場で区別されない。
(*4)もう「テーブルゲーム」なんかよりはるかに多くを占めている。