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under chequered flag

MAR.29.2011

2011年F1ハイライト
Rd.1 オーストラリアGP:セルジオ・ペレス


 40周目にセルジオ・ペレスが1:29.778のファステストラップを記録したとき、ザウバーの秘めたるポテンシャルは確信されたに違いないが、同時にこれはオプションタイヤの最後の力に見えた。レース序盤に何度も解説されたように、少なくともアルバートパークにおいてどうやらピレリタイヤはタイムの落ち方がリニアではなく、スムーズに走れる状態がずっと続いたあと、突如グリップダウンを起こす特性を持っていたからだ。テストのときから感じられていたザウバーとピレリタイヤのマッチングの良さを鑑みれば、このロゴを黄色く塗られたタイヤがまだ余力を残しているだろうことは想像できたが、それもまもなく終わる、要は最後の食いつきと軽くなった重量が釣り合った一瞬に過ぎないと考えるほうがよほど妥当に思われたのだった。だいたい実際のところテレビでペレスのスタートタイヤを把握する術はなかったから――フジテレビCSの現地解説2人の言及も含めて、ということだがしかしスタート直後のペースの悪さで判断がつくはずだったと言われれば返す言葉もない――まだプライムタイヤに交換する必要があると思っていたし、直後に2ストップ目でプライムを履いた小林可夢偉が自己ベストを叩き、ペレスのペースが1分31秒台に落ちたことで2人の差が1周1秒近く縮まり続けて4秒を切るに至って、潮時に見えたものである。ライブタイミングを見ながらライバルはセバスチャン・ブエミかエイドリアン・スーティルか、どの位置で戻れるだろうかと計算していたわたしのどれほど滑稽なことか。
 ザウバーはとくにタイヤにやさしいクルマと言われるが、しかしどれだけクルマを作りこもうとも結局使い方はドライバーに委ねるしかない、というのはフェリペ・マッサの惨状を見ればたやすく理解できることだろう。3年前に10秒だけチャンピオンになった童顔のブラジル人は、2年ほどチャンピオンの座にいたチームメイトにレースペースで圧倒され、挙げ句プライムタイヤを使い損ねて最後まで走りきることができなかった。だいたい予選でピットアウト直後のターン1でスピンしたことであいもかわらず低グリップに弱点があることを露呈してしまったうえ、決勝でも第3スティントに入った直後、あれほど苦手とわかっているはずのプライムタイヤに交換したばかりにもかかわらずポジション争いでいきなりハードブレーキングを敢行してスモークをあげるほどタイヤをロックさせたのを見れば、ロブ・スメドリーの顔も難しくなるというものだろう。実際にどれほどタイヤを傷めたかは知る由もないが、デリカシーに欠ける印象はぬぐえない。クルマの違いを措いても、結局マッサはプライムタイヤでオプションタイヤを履くペレスの半分の距離しか走れなかった。55周目に綺麗なオプションタイヤで1:28.947のタイムを記録したが、ファステストラップにポイントが与えられていたのはだいたい半世紀前だということは忘れないでもらいたい。
 苦しむマッサに対し、ペレスは見事にタイヤを使い切った。暫定のファステストを記録したあと、メキシコ人ルーキーのオプションタイヤは終わりかけているように見えた。しかし50周目手前あたりから徐々にペースを回復し、コンスタントに1分30秒台を記録して、1分31秒台前後でまとめているチームメイトをふたたび引き離しはじめる。川井一仁が「プライムスタートだったかもしれない」といまさら言い出してどうやらチェッカーまで行きそうだという予感が漂いはじめたころ、気付けば昨季タイトルを争ったジェンソン・バトンにバトルを仕掛ける距離まで接近して、テレビにも映るようになった。コースにたっぷりラバーがのり、クルマが軽くなったことも負担の軽減に功を奏しているのだろう、相変わらずタイヤのサイドウォールは黄色く回り、ライブタイミングに表示されるピット回数は「1」のまま、しかし苦労を微塵も感じさせずにスムーズにコーナーを抜けていく。ターン4で縁石をまたいでも挙動がすぐさま収まり、そのままターン5に向かってスロットルを開けながらクリッピングポイントに接近していく姿は、たしかにトップレベルのペースを刻むクルマにふさわしいものだった。
 だれかに似ていたといえば、間違いなく昨季の小林可夢偉だろう。予選Q2敗退組のなかで上位につけ、タイヤ戦略で他チームの裏を取って逆転する。ロングスティントで出し抜くと一言ですませば簡単だが、スタート直後の接近戦を不利なタイヤで凌ぎ、バトルをこなしつつクルマが重く路面もできていない状態でスタートタイヤを壊さないようにしながらリクエストされたペースを作り上げるのは大変な仕事であり、事実2010年に小林とおなじことをできたドライバーはひとりもいなかった。それをペレスははじめてのF1であっさりとやってのけたのである。どれだけ賞賛してもしすぎることはない。車検違反で小林ともども失格になったことなど、些細な件である。
 それにしてもどうやらザウバーは似たような才能で似たようなタイプのドライバーをそろえることになったようで、2人の関係はおもしろいかもしれない。小林は昨季12~15番手あたりのグリッドから何度もQ3進出組を食ってみせた。今回は逆説的な話でもあって、Q3に進んでしまったことでスタートタイヤを消耗させた上にタイヤ戦略の幅も失って、ペレスよりも弾力的にレースを作れなかった結果先行を許した、という面もあるだろう。おなじクルマでピット回数が1回多ければ負けるのは道理であり、予選の結果が逆なら案外小林が上位でフィニッシュしたかもしれない。ザウバーの戦略はライバルに衝撃を与えたが、こうなると悩みも生じる。プライムスタートで1ストップという戦略をとれる唯一のチームであり、グリッド3列目を狙えないのなら、Q3でオプションタイヤに限定されるのはいかにももったいない話だ。手の内を明かすのは癪だが、10番手を覚悟してプライムでQ3を走ることも検討に含まれうるだろう。ザウバーが今後も5番手前後の位置をキープし続けるなら、しばしQ3ジレンマに陥る可能性もありそうだが、タイヤに苦しむシーズンといわれる中でこれほど贅沢な悩みを抱えられるのは幸せなことにちがいない。


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