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under chequered flag

APR.11.2011

2011年F1ハイライト Rd.3 マレーシアGP:小林可夢偉


 ザウバーは、欲をかいた。
 上位ランナーがマーク・ウェバーの10周目を筆頭に14周目までにタイヤ交換を済ませるなか、小林可夢偉が17周を走ってようやくピットレーンに入ろうとしたとき、彼のペースはすでに1分47~48秒台にまで落ちこんでいた。自己ベストの1分43秒5から4~5秒も遅いタイムは、予選Q3のフルアタックを経てスタート直後からマーク・ウェバーやミハエル・シューマッハと抜きつ抜かれつのバトルを繰り広げたオプションタイヤがすでに限界を超えた--エンジニアの間では、ピレリタイヤのこの急激な性能低下を「崖から落ちた」というらしい--ことを示していた。セバスチャン・ベッテルのタイムドロップを見ると、Q3を走ったタイヤは現実的に12周あたりが限界だったのだろう。小林のタイムもこのあたりから露骨に落ちはじめ、スティントを引っ張って遅いペースで走る間にコース上で一度は仕留めたミハエル・シューマッハにふたたび先行を許した。
 1度目のピットを他車より5周も遅らせることで小林が得たものはなにもなかった。この時点でザウバーが、もうすでに「お得意の」と言ってもよさそうな少ストップ作戦を採ってくるとことが確定的になったが、しかしオーストラリアの再現を狙ったこの戦略は欲張りすぎで、失敗だったと評価するのが妥当と思われる。13周~17周のドロップで小林が失ったタイムは、少なく見積もっても15秒はあり、2回目のストップでも同じことが起こったと仮定すると彼は2ストップを選択したことでコース上で30秒を損したことになる。この計算が妥当ならば1回分減らしたピットストップのロスタイム23秒よりも7秒遅く、ザウバーC30をもってしても--といっても金曜日のタイヤ状況は、長い距離を走るのに適していないことを示していた--2ストップはほんらい選択できない戦略だった。小林は8位で入線後、ルイス・ハミルトンの20秒加算ペナルティによって順位を7位に上げたが、3ストップを採っていればおなじくペナルティを受けたフェルナンド・アロンソを食って6位に入った可能性も否定できない。2人の最終的なタイム差は9.2秒だった。
 とはいえフェラーリとマクラーレンのペナルティは幸運にすぎず、もともとの8位という順位はほぼ戦闘力どおりの結果だろう。厄介なことに中段グループは8位から15位くらいまでみな「戦闘力どおり」だったりもするわけだが、小林の評価すべき点はここまでの混戦にあって理想的ではない戦略で走りながら、それでも変わらない結果を持ち帰ってしまったことにある。タイヤと重量なりの安定したペースを刻みつつ、ピットタイミングがずれたことでコース上ではおそらくもっとも多くのオーバーテイクを見せ、そしてもっとも多くオーバーテイクされもするなど派手な立ち回りでレースに彩りを添えた。今回3位表彰台に登ったのは去年終盤圧倒したニック・ハイドフェルドである。2年目の小林は、もはや入賞圏内にいるべきドライバーとなった。
 予選にも成長の跡が窺える。去年の小林はもっともタイムを出したいタイミングでかならずしもベストをたたき出せたわけではなかった。チェッカー直前のフライングラップでベストを更新できずにQ1で落ちたり、Q3進出を逃したことが何度かあった。しかし今年は2戦続けてアタックの度にタイムを伸ばしてポジションを確保している。ただ速いだけでなく、状況に反応できるのは一流ドライバー素質である。残る課題はよいタイミングでよいチームにいることだけだろう。
 ザウバーは欲をかいた。予選ではじめてオプションタイヤを温存してQ3に正面から挑み、決勝はクルマの特性を生かした辛抱の2ストップで愚直に上位を狙った。Q3で小林は10位にとどまり、決勝も3ストップ勢を出し抜けず結果としては実らなかったが、欲張れたのはまぎれもなくチームがC30のポテンシャルを今まで以上にポジティヴに評価するようになった証だ。ザウバーは着実にトップチームの方法論を採りはじめている。優秀な開発能力に統率力のあるリーダー、そしてプライベーターとしては豊富な資金力と、風格を備える若いエースドライバー--いま一番活力のあるチームなのは間違いない。かつてのザウバーが戻ってきた。


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